IoT/AIなどのICT技術を駆使した「スマートビルディング」とは何か?

IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ロボット、ビッグデータといった最先端のICT技術は、もはや私たちの日常生活に欠かせない重要なものとなりました。日本政府は、これらの技術を活用して今後目指すべき未来社会の姿を描いています。

現在、政府は「Society 5.0」の実現を目指しています。Society 5.0とは、2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」で提唱された言葉です。狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、5つ目の新たな社会のことを指します。

時には、「超スマート社会」と表現される、この新たな社会。その実現に向けて様々な分野で取り組みが進んでいます。たとえば、「スマートホーム」。IoTやAIなどのICT技術を駆使して、居住者にとってより安全・安心で快適な暮らしを実現する住宅のことを指します。

今回ご紹介する「スマートビルディング」は、このスマートホームの発想をオフィスや商業施設にも適用したものです。以降で、その特徴やメリット、具体的な取り組み状況などを解説していきます。

スマートビルディングは、どこが賢いのか?

直訳すると「賢い建物」となるスマートビルディング。一般的に、ICT技術を活用して、照明、空調設備などを自動的に制御・管理するシステムを備えた建物のことを指します。具体的にはIoT機器やセンサー各設備に設置して、それらを相互連携させることで最適な制御・管理を実現するというものです。

スマートビルディングでは、オフィスや商用施設の存在を単なる働くための場所ではなくなり、より効率的に働ける生産性向上に寄与する場所や新たなユーザー・エクスペリエンスを提供できる場所への変革を可能にします。

スマートビルディングの誕生以前にも、「BAS(ビルオートメーションシステム)」と呼ばれる建物の集中制御・管理システムが導入されてきました。ビル内には空調設備をはじめとする多様な設備機器が設置されています。それらの機器の稼働、部屋の温湿度を自動制御したり、監視しているのがBASです。

1960年代から活用されてきた同システムの発展形が「BEMS(ビルエネルギー管理システム)」です。BEMSは、BASで管理しているデータを利用し、エネルギーの消費量を可視握・管理、分析するシステムです。現在、全世界における課題となっている地球温暖化防止や省エネルギーなどに関する目標を達成するためには必要不可欠なものだと言えます。

BEMSの例(出典:環境省の資料を基に作成 http://www.env.go.jp/council/06earth/y060-81/mat02-2.pdfp15

また、2000年代に入ると、ビル管理システムにおける通信技術の標準化が進みます。さらに2010年代には東日本大震災の復興予算としてBEMSに対する補助金などが拠出されました。その結果、首都圏を中心にスマートビルディングへの取り組みが加速しました。

企業がスマートビルディングに注目する時代背景

スマートビルディングは、BEMSを軸とするシステムで構成され、建物内の快適な環境を維持したり、管理・制御することが可能です。また、省エネルギーや建物管理者の省力化への貢献も期待されています。

地球全体の環境問題が深刻化する中、特に温暖化対策は解決すべき最優先事項に位置づけられています。CO2削減に全世界が取り組む背景にあるのが「パリ協定」です。パリ協定とは2020年以降の気候変動問題に関する国際的な協定で、1997年に定められた「京都議定書」の後継となります。

京都議定書では、CO2を含む温室効果ガスの排出量削減義務が先進国に限定されていました。一方、パリ協定では、発展途上国を含むすべての主要排出国(世界196カ国)が対象になりました。日本政府はパリ協定によって定められた温室効果ガス削減の目標数値として「2030年までに2013年度と比較して、温室効果ガスを26%削減する」ことを掲げています。

また、2020年10月には当時の菅 義偉首相が「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにして、2050年にカーボンニュートラル(脱炭素)社会の実現を目指す」ことを表明しました。

業務用ビルからのCO2排出は、日本のCO2排出の1割程度を占めているとも言われています。省エネや再エネの導入で無駄なエネルギーの使用を減少させることで、CO2の排出量は削減できます。地球温暖化の大きな原因と考えられるCO2の排出量を削減することは、社会貢献が重視されつつある企業にとっては、真剣に取り組むべき施策なのです。

「インテリジェントビル」との違い

スマートビルディングを支える最先端のICT技術が、IoTです。IoT普及以前は、BASによって集中管理室においてビル内の設備機器を一元管理できる建物を「インテリジェントビル」と呼んでいました。その後、インターネットやIoTの普及によって誕生したのが、スマートビルディングです。

インテリジェントビルの多くはインターネット回線と接続されておらず、設備機器同士の連携は限定的でした。その後、IoTによって設備機器の高度な連携が可能になり、施設管理における大幅な効率化を図ることが可能になりました。

スマートビルディングでは、電力設備、空調設備、会議室、トイレ、喫煙所など様々な建築設備にIoTを搭載し、そこから収集したデータを基に自動的な制御・運用を実現します。

また、インテリジェントビル、スマートビルディングともに、建築設備の操作や管理を効率的にする点では共通しています。ただ、BASが基本的にビル内にシステム管理室を置くことを想定しているのに対し、スマートビルディングではビル外からの遠隔管理や遠隔操作も可能です。

スマートビルディングに備わる主な機能

スマートビルディングには、どのような機能が備わっているのでしょうか。ここでは、代表的な4つの機能を紹介します。

スマートビルディングの機能の1つが「ビルの利用データの分析」です。スマートビルディングを効率的に運用するには、建物内のエネルギー利用状況の把握が必要不可欠です。IoT機器から取得したデータを取得し、そのデータを分析します。それによって、ムダやムラ、設計段階では気づかなかったリスクを検知するのです。

たとえば、空調機器では、その稼働データを取得することで「温度制御ができていない箇所」「機器ごとの電気料金」などが把握できます。また、機器の死活監視やエネルギー消費量が多い機器の特定などにも利用でき、より効果的な運用に向けた意思決定を可能にします。

2つ目の機能が「制御システムの自動化」です。空調や照明などが既存の建物に備わっています。それらを制御するシステムの多くが、自動制御機能を備えていません。スマートビルディングによって、建物全体のすべての制御システムを集約し、その制御を自動化することが可能です。

たとえば、建物に人感センサーを設置すると、人が入室したときだけ照明を点灯させることも可能です。時間帯や場所に応じて適切な環境設定を実現できます。

3つ目の機能が「管理システムの統合管理」です。建物には空調、照明などの機器やセキュリティ、エレベータなど様々な設備があります。これらに対して独立した管理システムが使われている場合、各操作が繁雑となり、非効率な運用となってしまいます。スマートビルディングでは、管理システムを一元的に統合することで、運用効率を高めることが可能です。

4つ目の機能が「セキュリティ」です。スマートビルディングでは、監視カメラや各種センサーが設置されています。それらの入退室管理の情報から不審者の侵入や異常な行動を検知することも可能です。また、混雑状況や人流を分析することで、警備員の最適配置など安全性の向上を実現します。

さらに地震発生時にはセンサーが揺れを感知したり、そのデータを分析したりすることで建物の損傷度を判定することも実現します。

スマートビルディングの導入メリット

近年、オフィスビルは単なる作業場ではなく、効率的に業務を遂行できる空間としての活用が期待されています。スマートビルディングでは、トイレや会議室、フリースペースなどの施設の空き情報、従業員や重役の在席・在室確認なども簡単に把握可能です。

また、センサーを活用して温度や湿度、室内の明るさ、二酸化炭素濃度などを自動制御することで、心地の良いオフィス環境を整備することが可能です。そこで働く従業員の生産性向上や健康の保持・増進につながる行動を誘発することも期待されています。

商業施設では、IoT機器や各種センサーなどを利用して、館内のデジタルサイネージやWebサイトなどを通じて、来館者に必要な情報を適宜配信することができます。また、施設内の混雑状況を事前に把握できるため、快適な施設利用に貢献しています。

また、「建物の保守管理の効率化」も実現できます。従来、建物の点検業務では巡回作業員が記録板を持って歩き回ったり、手書きでメモした情報を後でシステムに入力し直したりという非効率なやり方が取られていました。

しかし、器物損壊などの異常を見つけた場合、巡回作業員がその様子をスマートフォンで撮影し、その情報をすぐに送信したりすることができます。点検作業のデジタル化を実施し、施設管理の効率的な運用も可能です。

スマートビルディングの例(出典:弊社作成)
参考URL:https://www.obayashi.co.jp/news/detail/iotaiwellnessbox.html

スマートビルディングが、多くの人々の生活を快適にする

スマートビルディングは、IoT技術やBEMSなどを中核として構築されます。そのため、膨大な数のIoT機器や各種センサー、それらのデータを集約して管理するネットワーク環境、制御・管理システムを導入することが重要です。当然、導入・構築コストや手間が発生してしまいます。

また、制御システムや通信関連のトラブルやセキュリティリスクがつきまとうこともあります。そのため、スマートビルディングの導入に当たっては、確かな技術・品質のあるソリューションを選定する必要があります。

スマートビルディングの導入効果は、建物の施設管理業務の効率化や省エネルギーなどの環境対策、施設利用者の満足度向上などが挙げられます。今後、ますますスマートビルディングが普及すると予想できます。

その基盤となるIoT技術にはさらなる進化が期待されます。スマートビルディングをさらに良いものへと発展させ、人々の生活をより快適にすることに貢献していくことでしょう。

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